イベントにおけるワンパターン化の回避
「スクールガールストライカーズ(以下、スクスト)」が面白い試みをしていた。
イベント中に毎日ショートムービーを配信するというものだ。
スクストは、中高生の少女たちが謎の侵略者に立ち向かうため、多次元時空を股にかけて戦うという内容のラノベ風RPGである。
ゲーム内イベントでは、冒険や戦いだけでなく、異次元で娯楽活動を行うこともある。
今回はその一環で、少女たちが協力して1つのミステリードラマ(全編CG)を作った。
それをイベント中に毎日配信し、プレイヤーをハラハラさせた。
【スクスト2】ナンバリング変更を機に始めたい方へ - ゲームの無理な話
マンネリの打破
最近は、利潤を最大化させるためか、スマホゲームのイベントがワンパターン化している。
中には毎週のように同じイベントをやっているゲームもあり、それがゲームなのか作業なのかわからなくなってくる。
スクストも例外ではなく、毎月決まったイベントを続けているだけだった。
そんな中で、スクストはそのような新しいチャレンジをした。
イベント概要
ショートムービーの要旨
とある王国の秘宝が異なる2つの怪盗軍団によって狙われる。
なんでも、その国の王女が秘宝を持ち出し、お忍びで日本にやってきていたというのだ。
宝を狙う怪盗、怪盗を追う警察、何者かから謎の宝石を託された探偵、王女の行方を追う護衛、そして、行方をくらました王女。
各々の思惑が交錯する中、事態は思わぬ方向へと動き出す。
素性のわからないグループ分け
今回のイベントは、個人対戦機能を拡張し、グループに分かれて順位を競うという内容になっていた。
この形式のイベントは定期的に開かれているが、新しい点が主に2つある。
ひとつは、毎日ムービーを配信するというところだ。
もうひとつは、これから素性が明らかになるキャラクターによるグループ分けである。
グループは2つの怪盗軍団、警察、探偵、護衛の合計5つに分かれていて、イベント参加時にプレイヤーが決めることができた。
人気が読めないドキドキ感
グループの素性は1日目のムービーではわからないので、プレイヤーは内容がよく分からぬまま、エントリーすることになる*1。
筆者もよくわからぬまま、(演劇という設定なので、)推しキャラが演じているグループを選んでいた。
グループ内のイベントポイントの合計でグループの順位が決まるのだが、同じグループ内の個人間にも順位がつく。
個人ランキングの上位報酬には月末イベントの特効アイテム*2があるので、どのグループにするのかは意外と重要な選択だ。
今回は、既存のキャラクター以外得体の知れない集団ばかりだったので*3、グループ選択においてはこれまで以上のドキドキ感があった。
イベントムービーが毎日配信されたので、自分のグループがどのような結末を迎えるのかが楽しみでもあった。
素性のわからない登場人物でチーム分けし、チーム対抗戦をやるという形式が斬新だった。
ショートムービーで登場人物の正体が明かされていくのが面白かった。
見習いたいこと
ユーザーの惹きつけ
このイベントは、ユーザーを引き込むのが上手だった。
前述の通り、自分の選んだグループの顛末を見届ける義務感がプレイヤーには生じる。
その上、ショートムービーは毎日0時に配信されるので、寝る前にうっかりアプリを開くと、観ずにはいられない(スキップは可能)。
ミステリーということもあり、ユーザーを主体的にさせることは容易であった。(「邪魔な動画広告」というよりは、「面白いTVCM」という感じだ。)
継続的なコンテンツの供給
イベント期間中に継続的にコンテンツを提供したことは評価に値する。
冒頭にも言及したが、スマホゲームのイベントは作業になりがちだ。
ポイントを稼ぎ、ランクを上げ、報酬を受け取るためのルーティンになってしまう。
スクストのイベントでも、スタミナ回復アイテムをたくさん使うなどして、ポイントを稼ぐ作業になりがちだった。
この状態は、忙しくなるなどして作業ができなくなった人が脱落していくため、極めて不健全である。
だが、今回は毎日ムービーを配信することで、作業ではなくイベントに参加しているのだという意識をユーザーに持たせやすかった。
間期の有効活用
現在(2017年6月)、スクストは新たなメインストーリーを配信するための準備期間にある。
その期間をうまく活用したのが今回のイベントだ。
ゲームに目立った動きがない場合、プレイヤーはスマホゲームから注目を逸らしてしまう。
もちろん、目立った動きができなかったかつてのゲームは、飽きたら押入れかワングーに行っていた。
だが、スマホゲームには目立った動きをすることができる。
今回は、番外編を約1週間に渡って配信したので、プレイヤーにとっては再度ゲームに注目するよい機会になった。
一方、製作側は、現在メインストーリーの製作に大忙しだと思う。
だが、こうした番外編を作ることで、脳のリフレッシュになったのではないだろうか? (疲労の回復とは言っていない。)
本筋とは関係のないストーリーを挟むことで、ユーザーもシナリオライターも、気持ちの入れ替えができたはずだ。
イベント期間中の継続的なコンテンツ供給で、ユーザーを惹きつけることに成功した。
誤解してはいけないこと
毎日のコンテンツの供給
今回のやり方がスマホゲームのストーリーの基準と考えてはいけない。
毎日配信していたら、シナリオライターやエンジニアは悲鳴をあげるだろう。
今回は四半期決算前の書き入れ時だったために、いつもより力を入れたということも十分考えられる。
それに、スクストのストーリーは基本的に声優の声を入れていないし、ある程度柔軟なスケジュールがとれるはずだ。
配信期間もイベント期間中の数日間のみであり、スタッフの負担は限定的だったと言える。
間違っても、毎イベントで毎日フルCGのムービーを配信できると思ってはいけない。
番外編への無駄な注力
番外編はウケるだけでは意味がない。
スクストは番外編でも販促をしっかりしているのだ。
実は、スクストのイベントストーリーは報酬となるコスチュームを紹介するムービーでもある。
今回は2つの怪盗集団のコスチュームがイベント報酬になっており、その2種類のコスチュームを紹介するムービーになっていた。
映っているだけで紹介になるのかという点については、プリキュアを参考にされたい。
プリキュアの妖精は、よく人間のキャラクターに抱きかかえられている。
これは、画面に妖精を映すことで、妖精のぬいぐるみを子どもがねだりやすくするという配慮だ。
つまり、衣装を映していれば、プレイヤーは自然とそれが欲しくなる。これと同じ原理で、衣装を映すだけでも衣装の販促につながるというわけだ。
そのため、衣装を着たキャラクターの全身絵がないゲームでそうした番外編を作っても、売上に直結するかは不透明である。
ユーザーに最も持たせたい意識は、「お話面白い」ではなく、「課金したい」であろう。
だから、スクストの番外編がウケたからといって、安易に追従してはいけない。
マンネリからの脱却
スマホゲームのイベントはマンネリ化しやすく、製作陣が新しい形式のイベントを不定期に投入することが求められる。
冒頭に書いたように、短〜中期的な戦略としては、ヒットしたイベントを繰り返すことが利潤の最大化につながる。
しかし、それを長く続けると、いずれプレイヤーは飽きたり、限界を感じたりするはずだ。なので、たまには新しいことにチャレンジしたり、一肌脱いだりしてもよいと思う。
ただし、それをいつまでも続ければ、運営も疲弊するし、プレイヤーも困惑するだろう。
数ヶ月に一度程度趣向を変えてみて、好評だったら再度やってみる。
その程度の柔軟さが製作陣には求められる。
それから、面白いことは必ずしもお金にならない。
だから、どうすればお金になるかという視点を忘れてはならない。
面白いから課金してくれるだろうとは思わないことだ。
このイベントは面白い変化球だったし、報酬の宣伝もしっかりできていた。
*1:普段のイベントでは、事前にグループの説明があり、事前にエントリーするようになっていたが、今回はイベント当日に選ぶようになっている。
*2:特効アイテムとは、本来の能力よりも高い能力を発揮するアイテムのこと。一般的なスマホゲームではキャラクターカードがそれにあたるのだが、スクストの場合は装備品である。一般的には特効アイテムがあることで、イベントポイントがたまりやすくなったり、パワーが上がったりする。
*3:警察と探偵はこれまでのイベントで登場済み。それ以外は1日目のムービーからキャラクターの一側面しか明かされていない。そのため、人気のないグループの個人ランキングで上位を取るなどの戦略が組み立てづらかった。