既存ユーザーVS新規ユーザー 幸せの衝突
「スクールガールストライカーズ」で通常ミッション・エピソード2をプレイするときの探索P(スタミナ)が大幅軽減された。比較的新規の隊長である私もメインストーリーを読み進めることができてとても嬉しい*1。しかし、これを喜ばない人もいるかもしれない。
私が以前プレイしていたスマホ音楽ゲームで、プレイ時の消費スタミナが半減するキャンペーンがあった。私のスタミナは100を超えているのに消費スタミナは10以下。スタミナを全部消費するのに時間がかかりすぎるため、プレイする気が起きなくなってしまった。このように、新規ユーザーのためにやった措置が、既存ユーザーの幸せを奪ってしまうこともある。
誰も不幸にならない改善
経済学にパレート改善という概念がある。誰かの幸せを奪うことなく、誰かがより幸せになったとき、それはパレート改善だ*2。これは経済学的に正しいとされているが、似たようなことをゲームでやると嫉妬心を生む場合もある。
消費スタミナ割引措置
上記のようなスタミナ割引は新規ユーザーに利便性をもたらすが、既存ユーザーからは利便性を奪っている。忙しい学生や社会人がスマホゲームに使える時間など1日20分あるかないかだろう。スタミナが半減して、ゲームで得られる利益も半減してしまったら、いつもの幸福感を得るのに2倍の時間が必要になる。ブラックなのは職場だけで十分だ。いずれにしても、スタミナ回復アイテムの配布のように、既存ユーザーが使うシステムを傷つけないで新規ユーザーにも利益を供与できるような措置が望ましいのではないだろうか? つまり、人によって幸福感に差がある措置を全員にとる。こうすることで、一部の人にだけ与えられているという不公平感をなくすことができる。
ガチャアイテムの救済措置
スマホゲームでは、新規ユーザー獲得のため、新規ユーザーが(ゲーム内アイテムを使用せず)無償で高レアなカードをもらえることもある。その他に、新規ユーザーが参加していなかったであろうイベント・引けなかったであろう期間限定カードなどが復刻することも少なくはない。だが、既存ユーザーの中にはこれに怒る人もいるようだ。
「俺がX万かけて引いたURがタダで手に入るなんてずるいぞ」
「期間限定カードが復刻するなんて、馬鹿を見たようだ」
これは短期的に見れば、既存ユーザーの持ち物を奪っているわけではないし、パレート改善と同じと言える。だが、長期的に見ると、既存ユーザーは課金コンテンツ支払い分の金額を奪われているのと同じ(つまり、パレート改善とは違う)と考えてよい。このように、有償で回したガチャや期間限定ガチャに向けた情熱が新規ユーザーへの救済措置によって否定されてしまうこともある。この場合も、全員に高レアカードや高レアが必ず手に入るガチャチケットなどを配布するのが良い策だ*3。すでに高レアカードを持っている既存ユーザーにとっては、享受できる幸福感は少ない。だが、みんなに同じ措置を取っていて、平等感はある。
一方で、期間限定カードの中には、イベントで頑張らないともらえないものもある。そうしたカードがガチャに並んでしまうと、イベントに参加しなくてもカードがもらえることになる。元々ガチャで手に入るカードとの違いは、それがあるからといってゲームが特別有利に進められる訳ではないという点だ。他の同レアカードと性能は同じわけで、不利なユーザーを保護する措置としては不適切である。むしろ、新規ユーザーには、イベントに参加すればレアカードが手に入るということを認識させるべきで、そのレアカードを本来と異なる方法で与えるのは運営にとっても損だ。
みんなが幸せになる改善
スタミナ上限大幅増量のアップデート
「バンドリ!ガールズバンドパーティ」ではライブブーストの上限が3から10に大幅増量されるアップデートが実施された。これにより、ユーザーはイベントポイントなどの報酬の獲得が楽になった。従来は1時間半に3回しかゲームができなかった*4ので、レアカードなどのイベント報酬が獲得しづらかった。しかし、ライブブーストを最大10にし、ライブブーストを3つ賭けることで報酬が7倍(イベントポイントは15倍)もらえるようにしたので、1日にたくさん遊ぶ人も3回しか遊べない人も、ゲームをより楽しめるようになった。これは全員に対する改善であり、「新規ユーザーだけずるい」とか「今までの努力が馬鹿みたいだ」という反発は起きづらいだろう。ライブブースト3賭けの時にライブに失敗した場合のリスクもあるが、少なくとも改悪ではない。
新規のみ優遇は既存ユーザーの嫉妬を生む
ここまでみてきたように、新規ユーザーのためだけに不遇の穴埋め措置をすると、新規ユーザーへの優遇だと既存ユーザーからみなされる。経済学でいうパレート改善のように、誰かに損をさせずに誰かに利益を与える措置をゲームの運営がすることがあるが、それは時に、他のユーザーの激しい羨望の対象となる。既存ユーザーからモノや資産を取り上げていないにしても、新規ユーザーだけにゲームを有利に進められるアイテムを与えることは望ましくないようだ。既存ユーザーの苦労や献身を否定することになりかねないこのやり方は、全員に体力回復アイテムを渡す(人によって効果量が異なる)などの平等なものに変わるべきだ。
ユーザーの寛容に賭けるべきか?
「遊戯王デュエルリンクス」でも販売終了パックの再販が決まっているようで、既存ユーザーの反発が懸念される。これは該当パックの販売終了後に、海外版が新しくリリースされたことに伴う措置だ。人気カード「青眼の究極竜」だけでなくカウンターに役立つカード「クリボール」なども入っているパックであり、あるとないとでは差がつきやすい。大枚をはたいてクリボールを3枚揃えた人にとっては努力が無駄になった感があるかもしれないが、遊戯王がより多くの人に愛されるために許してほしいところである。あの時の苦労が否定されることになりかねないが、遊戯王の今後のために投資したつもりで、今後も遊戯王コンテンツに協力してほしいと思う。これは他のゲームの場合も同じだ。
*1:ミッションをクリアすることで、ストーリーが解放される。
一部、物々交換のことだとするサイトもあるが、物々交換はパレート改善の一例であって、パレート改善が物々交換を意味する訳ではない。限られたもの(例えばパイ)を分ける際、パイ1切れが全員に渡れば、誰も損せず、みんなが得をしているので、「パレート効率的」である。だが、急に人数が1人増えると、誰かの取り分を奪ったり、全員のパイを少しずつ減らしたりしないとその人の分が用意できない。この操作はパレート改善ではない。この記事では、この用語の本来の定義を若干逸脱してしまうが、誰も損をせずに誰かに利益をもたらすことをパレート改善と考える。
*3:例えば、「アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ」では、先日まで1日1回ガシャ無料キャンペーンを行っていた。
*4:正確には報酬5倍のボーナスがあるのが3回。